【設計者が解説】油圧ショベルの「足回り」完全解剖!走行モーター・油圧システムの仕組みを分かりやすく説明

重機とは

〜なぜ巨大なショベルカーがスムーズに走行できるのか?その秘密を元設計者が徹底解説します〜

重機の代表格である油圧ショベル。巨大なアームで重いものを持ち上げ、その巨体を自由に移動させる姿は圧巻です。

しかし、「どうやってあの大きな車体を動かしているんだろう?」「走行中、旋回しながらなぜ動けるんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?

走行システムは、油圧ショベルの機動力を支える心臓部です。その仕組みを理解することで、日々の操作がよりスムーズになり、万が一のトラブル発生時の対応力も劇的に向上します。

この記事では、大手重機メーカーで20年間油圧ショベルの設計に携わってきた筆者が、走行システムの「仕組み」「動かし方」「制御の秘密」を分かりやすく解説します。

この記事を読めば、あなたは油圧ショベルの走行システムに関する知識を深め、同僚や後輩にも自信を持って説明できるようになるでしょう。

1. 走行システムの全体像:力を伝える3つのステップ

油圧ショベルの走行動作は、一見複雑そうですが、その原理は非常にシンプルです。例えるなら、クルマのエンジン(動力源)とタイヤ(駆動部)の関係を、油の力で実現しているとイメージしてください。

油圧ショベルの走行は、以下のシンプルな3つのステップで成り立っています。

  1. 【動力源】 エンジンが「油圧パワー」を生み出す
  2. 【伝達部】 「油圧パワー」を「回転運動」に変える
  3. 【駆動部】 「回転運動」を増幅させ、クローラを回す

この仕組みをもう少し詳しく見ていきましょう。

※ホイール(タイヤ)式のショベルもありますが、本記事ではクローラ式の油圧ショベルについて記載します。

走行の仕組みを構成する主要部品(図解)

走行動作に関わる主要部品は、大きく分けて上部旋回体と下部走行体に配置されています。

出展元:コベルコ建機
役割部品名重要な働き
動力源エンジン油圧ポンプ走行に必要な「油圧(油の力)」を生み出す。
力の分配コントロールバルブオペレーターの操作に応じて、油を走行モーターに送る量を調整する。
旋回時の電力確保センタージョイント上部旋回体の油圧を下部走行体に伝えながら、旋回動作を可能にする
駆動走行モーター減速機油圧を受けて回転し、巨大なトルクを生み出してクローラを駆動する。
走行スプロケットクローラモーターの回転を地面に伝える。

これらの部品の中で、走行システムの核となるのが「油圧パワー」です。

2. 動力源:油圧パワーの凄さとセンタージョイントの秘密

油圧ショベルの力の源は、その名の通り「油圧」です。

巨大な力を生む「油圧ポンプ」の役割

走行の動力は、上部旋回体に搭載されたエンジンが生み出します。このエンジンの回転力が、油圧ポンプに送られます。

油圧ポンプは、エンジンから受け取った回転力を利用し、作動油(オイル)を高い圧力で送り出す「油圧パワー」に変換します。これが、油圧ショベルの全ての動き(走行、アーム動作、旋回)の源泉となります。

KYB、いすず自動車、川崎重工、末吉工業

旋回と走行を両立させる「センタージョイント」

油圧ショベルは、旋回しながら同時に走行することができます。この驚きの動きを可能にしているのが、上部旋回体と下部走行体の中心をつなぐ「センタージョイント」です。

センタージョイントは、油圧ホースが絡まることなく、旋回しながら高圧の油を走行モーターに送り続けるための「中継地点」の役割を果たしています。この部品があるおかげで、オペレーターは旋回と走行を同時に行うことができるのです。

3. 走行モーターと減速機:巨体を動かす「力の増幅」の秘密

センタージョイントを経由して下部走行体に送られた油圧パワーは、左右の走行モーター(油圧モーター)に送られます。

力を増幅する「減速機」の存在

走行モーターは、高圧の油圧を受けると高速で回転します。しかし、この高速回転をそのままクローラに伝えても、大きな車体を動かすほどの力(トルク)は出ません。

そこで登場するのが、走行モーターに直結されている減速機(ギヤシステム)です。

減速機は、モーターの回転数を大幅に「減速」する代わりに、「力(トルク)を何倍にも増幅」させる役割を果たします。この強力なトルクがスプロケットを介してクローラを回転させることで、巨大な油圧ショベルが前進・後進できるようになるのです。

安全性を守る「機械式駐車ブレーキ」

走行モーターには、機械式のディスクブレーキが組み込まれています。

  • 走行時: 油圧の力でブレーキを解除
  • 停車時: 走行操作をやめると油圧が失われ、バネの力で自動的にブレーキが作動

この仕組みにより、オペレーターが操作をしなければ、傾斜地でも安全に停車できる設計になっています。

4. 運転が変わる!速度と力の「制御」の秘密

オペレーターが操作レバーを動かすとき、走行の速度(トルク)はどのように制御されているのでしょうか。

速度の制御:油の「流量」を調整する

走行の速度を変えることは、走行モーターの回転数を変えることです。これは、モーターに送り込む油の「流量(流れる量)」を調整することで実現されます。

  1. 操作レバーの操作量: オペレーターがレバーを大きく倒すと、油圧ポンプからの流量が増え、モーターの回転数が上がり、高速走行になります。
  2. 高速・低速の切り替え: 走行切替スイッチを操作すると、走行モーターの内部構造(押しのけ容積)が切り替わります。これにより、同じ流量でも高速になったり、トルク重視の低速走行になったりします。これはクルマのギアチェンジのようなものです。
  3. 方向転換(ステアリング): 左右のレバー操作に応じて、コントロールバルブが左右の走行モーターへ送る油の流量と方向(正転・逆転)を独立して制御することで、直進、後進、右折、左折、さらにはスピンターンなどの複雑な動作を可能にしています。

力(トルク)の制御:油の「圧力」で決まる

走行時に発生する力(トルク)は、主に油の「圧力」によって決まります。

走行中にクローラが岩などの大きな負荷にぶつかっても、走行モーターが故障しないのは、走行システム内に設置されているリリーフバルブ(安全弁)があるからです。

リリーフバルブは、「これ以上の圧力がかかるとシステムが危険」という最大圧力を設定しています。負荷が大きくなり設定圧力を超えると、リリーフバルブが作動油をタンクへ逃がし、それ以上圧力が上昇するのを防ぎます。

つまり、走行の「最大の力」は、このリリーフバルブの設定圧力で制限されているのです。

まとめ

油圧ショベルの走行システムは、オペレーターが操作レバーを操作することにより、上部旋回体に配置されたエンジンで発生させた動力を油圧ポンプで油圧パワーに変換し、それをセンタージョイントを介し下部走行体に配置された走行モーターへ伝達し、減速機で力を増幅し、そこに連結されたスプロケットにより、クローラを回すことで油圧ショベルが前進および後進することができる。

  • 動力源: エンジンが油圧ポンプを動かし、強力な油圧パワーを生み出す。
  • 伝達の秘密: センタージョイントが旋回しながらの走行を可能にする。
  • 駆動の工夫: 減速機が高速回転を強力なトルクに変換し、巨体を動かす。
  • 制御の基本: 流量で速度を、圧力でトルク(力)を制御する。

この仕組みを理解していれば、例えば「急に片側だけ走行スピードが落ちた」といったトラブルが発生した際にも、走行モーターやセンタージョイントだけでなく、油圧ポンプの異常制御バルブ、センサーの不具合など、原因を多角的に推測する手助けになります。

さらなる知識が現場の「力」になる

本記事で油圧ショベルの走行システムの大枠を理解していただけたかと思います。

もし、あなたがこの知識を現場でのスキルアップキャリア形成に活かしたいとお考えなら、さらに一歩踏み込んだ学習をおすすめします。

🚨 トラブルシューティング能力を高めたい方へ

走行システムは複雑な油圧回路の一部です。走行中に異常を感じたとき、「油圧ポンプ、バルブ、モーターのどこに問題がありそうか?」と推測できる能力は、修理のスピードとコストを大きく左右します。

ぜひ、油圧ショベル全体の基本的な構造と、各部の連動の仕組みに関する記事を合わせてご覧ください。あなたの「ショベル博士」への道が開けます。

\ あなたの知識をさらに深める!/

💬 ご意見・ご感想をお待ちしています

この記事に関するご質問や、あなたが現場で経験した「走行システムに関する興味深いエピソード」があれば、ぜひコメントでお知らせください。読者様同士の知識共有の場として活用いただければ幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました