重機の燃料タンクの仕組みを分かりやすく説明<「燃料タンク」は単なる箱じゃない!>

重機とは

重機の代表格である油圧ショベル。
大きいし沢山の部品でできていて色々な動きができる機械。
そんな部品のなかで燃料タンクがあります。「重機の燃料タンク?ただの燃料入れでしょ」そう思っていませんか?実はその認識、危険かもしれません。

油圧ショベルのエンジンに使用される燃料は燃料タンクに貯蔵されています。実はその燃料タンクは単に燃料を貯めるだけでなく、様々な役割や構造を持っています。この役割が機能しないとエンジンの性能が低下したり、エンジンが故障したりと影響は小さくありません。

今回はそんな燃料タンクの仕組みを分かりやすく説明していきます。

私は大手重機メーカーで20年間油圧ショベルの設計に従事してきました。どんな部品を使っているか、どんな仕組みなのかを理解しております。

この記事では油圧ショベルの設計者が油圧ショベルの燃料タンクの仕組みをわかりやすく説明します。

この記事を読めば、燃料タンクの仕組みを完璧に理解でき、同僚や後輩に説明できる「ショベル博士」になれます。

結論は、燃料タンクは役割として、貯蔵濾過放熱計量という機能を有していて、それを実現するために構成としてタンク本体、フィラーキャップ、ストレーナー、レベルセンサー(ゲージ)、フィードパイプ、リターンパイプ、ドレンバルブなどがあり、エンジンの性能低下故障の防止に寄与している大事な部品ということです。

【設計者が選ぶ】燃料タンクの「4つの超重要ミッション」

●貯蔵、濾過、放熱、計量

燃料タンクは、油圧ショベルのエンジンに燃料を供給するための重要な部品です。燃料タンクは、以下のような役割を果たしています。

●貯蔵:エンジンの連続稼働を支える「燃料のダム」
燃料タンクは、エンジンに必要な燃料を一定量貯蔵しておくことで、エンジンの連続稼働を可能にします。燃料タンクの容量は、油圧ショベルのサイズや使用目的によって異なりますが、一般的には200リットルから1000リットル程度です。
●濾過:エンジンを守る「最初の関門」
燃料タンクは、燃料に混入した汚物や水分を除去するための濾過機能を持っています。燃料タンクには、給油口にストレーナーと呼ばれる簡易的なフィルターが取り付けられており、給油時に大きな汚物を防ぎます。また、タンク内には、燃料をエンジンに送る前に微細な汚物や水分を除去するための燃料フィルターが設置されています。これらの濾過機能により、燃料の品質を保ち、エンジンの故障や性能低下を防ぎます。
●放熱:高温リターン燃料からエンジンを守る「冷却システム」
燃料タンクは、燃料の温度を下げるための放熱機能を持っています。燃料タンクには、エンジンで燃焼に使用されず余った燃料を戻すためのリターンパイプがあります。このリターンパイプから戻ってくる燃料は、エンジンで加熱されて温度が高くなっています。この高温の燃料は、タンク内の燃料と混ざり合い、タンク全体の燃料の温度を上げます。燃料の温度が高くなると、燃料の蒸発や発火の危険性が高まります。そのため、燃料タンクは、タンクの表面積を大きくすることで、燃料の温度を空気に放熱しています。
●計量:給油タイミングを見逃さない「残量の見える化」
燃料タンクは、タンク内の燃料の残量を計測するための計量機能を持っています。燃料タンクには、レベルセンサーと呼ばれるセンサーが取り付けられており、タンク内の燃料の水位を検出し、モニターに表示します。これにより、運転者は、燃料の残量を確認し、給油のタイミングを判断できます。


燃料タンクの構造

タンク本体:燃料を守り抜く「防錆びの要塞」

●錆は大敵

出展元:末吉工業

読んで字のごとく、燃料を貯蔵する容器です。

タンク本体の材質は、樹脂製のものは多くなく、ほとんどが鉄製です(ミニショベル等の小さなショベルで樹脂製タンクを使用)。タンク本体は、プレスと板金溶接の組合せで作られます。

タンク本体の形状は、油圧ショベルの車体に合わせて設計されますが、一般的には長方形や円筒形などです。

タンク本体の外面は、美観や錆防止のために塗装されます。また、タンク本体の内面にも、錆防止のためにコーティングが施されます。

タンク内面コーティングの種類は、使用される燃料によって選定されますが、電気亜鉛メッキが一般的です。

フィラーキャップ:タンクの圧力を調整する「賢い呼吸器」

●呼吸ができる蓋

燃料タンクの給油口の蓋のことです。

フィラーキャップは、タンクの内外の空気が行き来できるような構造となっており、かつダストが侵入しないようフィルターもついています。

タンク内外の空気が行き来できるといっても、燃料が揮発したり酸化を促進するほど大量に行き来するようでは困ります。
逆にタンクがまったく呼吸できないほど密閉されていても環境温度の変化による体積変化によるタンク内圧の変化を吸収できません。

ストレーナー:タンクへの異物侵入を防ぐ「門番」

●燃料タンクの門番

出展元:コベルコ建機

燃料給油口に着脱可能な形で配置されるフィルターのことです。タンクに異物が入らないようにするための門番みたいなものです。

ストレーナーは、給油時に燃料に混入した大きな汚物をタンク内に侵入させないようにします。また、ストレーナーは、定期的に清掃や交換を行う必要があります。

レベルセンサー

●燃料残量の計量

タンク内の燃料の水位を検出するセンサーのことです。これがないとモニターの燃料計はなんの役割も果たしません。

レベルセンサーは、先端にフロートと呼ばれる浮きが取り付けられており、タンク内の燃料の水位に応じて上下に動きます。

レベルセンサーは、振り子タイプのものと、上下方向に直線的に動作するタイプのものがあります。

レベルセンサーは、タンク側面に設置され、燃料の水位を電気信号に変換してモニターに表示します。

フィードパイプ:底の異物を吸い込まない「上げ底仕様」

●燃料の出発点

タンクからエンジンへ燃料を供給する入り口に該当します。通常タンクの底面に配置されます。またタンク底面に沈殿した汚物や水を吸い込まないようにタンク底面よりパイプ端部を少し高くしています。

リターンパイプ:高温燃料を安全に戻す「分離帰還ルート」

●燃料のかえり道

エンジンで燃焼に使用されず余った燃料をタンクに戻すための戻り口であり、通常はタンク底面に配置されます。また、同じくタンク底面に配置されたフィードパイプとは離して配置されます。これは戻り燃料は温度が高く、その燃料を直接フィードパイプから吸い込まないように考慮されています。

ドレーンバルブ:エンジン故障の元、水を排出する「秘密の蛇口」

●不要な水の排出

タンク底に溜まった水を排出するために配置されています。エンジンに供給する燃料に水が混入しないように定期的に排出するように推奨されます。

メンテナンス性向上のために、ボールバルブ等のバルブが配置されているのが一般的ですが、製品によってはねじ込み式プラグのみというものもあるかもしれません。

燃料タンクを長持ちさせる「3つの実務的メンテ」

燃料タンクの適切な管理とメンテナンスは、油圧ショベルの安全な運用と長寿命化に大きく寄与します。

以下に、燃料タンクの注意点をいくつか挙げてみます。

1.放置はNG!ドレーンバルブから「定期的に水を抜く」

●ほったらかしはNG

燃料タンクは、燃料に混入した汚物や水分を除去するための濾過機能を持っていますが、それでもタンク内には微細な汚物や水分が溜まることがあります。これらの汚物や水分は、エンジンの故障や性能低下を引き起こす可能性があります。そのため、定期的にタンク内を清掃し、汚物や水分を除去することが重要です。

下記は極端な例ではありますが、一例として挙げておきます。(粗悪燃料の影響もあります)

出展元:あおぞら建機

2.最新モデルは特に注意!「燃料の異物・水分・保管環境」を徹底チェック

●新しいモデルは特に注意

燃料の品質は、エンジンの性能や寿命に大きく影響します。燃料には、汚物や水分が混入しないように注意し、また、燃料の保存環境にも注意が必要です。特に、高温や湿度の高い環境では、燃料の品質が劣化しやすいです。

近年の排ガス規制対応モデルでは特に燃料の品質に対する要求が高くなってきているので注意が必要です。

3.緩みは大惨事!燃料漏れを防ぐ「取付ボルトの増し締め」

●しっかり固定されているか

燃料タンクの部品ではありませんが、燃料タンクを車体に固定するボルトも定期的に確認するようにしましょう。

ボルトが緩んでいたり脱落していたりしてないか。ボルトの緩みや脱落はタンクの破損へつながり、やがて燃料漏れなどに発展していき修理が大変になります。

まとめ

油圧ショベルの燃料タンクは、まさにエンジンの「生命線」でした。単なる燃料容器ではなく、4つのミッションを7つの賢い部品で実現する精密なシステムです。今日から、燃料タンクの見方が変わったはずです。この知識を現場での日常点検や、同僚への指導に役立てて、あなたのショベルを最高の状態に保ちましょう。

以上が、油圧ショベルの燃料タンクの役割、構造、注意点についての解説です。

本ブログでは重機の代表格である油圧ショベルの基本的な仕組みについて詳しく掲載しているので興味があればご覧になってください↓↓↓

コメント

タイトルとURLをコピーしました